ブレイク・スネルが20勝したことが示す”かもしれない”こと
タンパベイ・レイズ所属のエース、ブレイク・スネルが20勝を達成した。
今年のASに当初選出されなかったことを、クリス・アーチャー(現PIT)が激怒したことは記憶に新しい。もっとも、当初と記したとおり、クリーブランド・インディアンス所属のコリー・クルーバーの代役としてASに選出された。さて、そのスネルが20勝を達成したことは、今後のアメリカン・リーグ東地区内にてどのような意味をもたらすのだろうか。
Blake Snell | Rays at Orioles 5/13/18 | Keith Allison | Flickr
現在、ボストン・レッドソックスが103勝48敗で東地区の首位である。2位は開幕前の優勝候補であったニューヨーク・ヤンキース。そして3位にタンパベイ・レイズである。地区優勝はレッドソックスで確定だろう。WCに関しては、ヤンキースがオークランド・アスレチックスを下回る可能性こそあるが、レイズがPO進出する可能性は限りなく0に近い。
しかし、レイズの開幕前の評価を考えれば、間違いなく大躍進である。そして、傘下には(既に昇格済みのプロスペクトも含み)多くのプロスペクトが控えている。安直に、来季の戦力は右肩上がりになると考えるわけには行かないが、今季の大躍進により予想を上方修正する必要はあるだろう。
結論を先取りすると、レイズは今後数年間でPO進出を何度も果たすと見ている。そして、スネルのことはそれほど取り上げられなかった。
下記は、18年、19年にFAとなる予定の選手一覧である。尚、MLB登録年数が2年以上6年未満の選手は対象外としている。また、実際にはより長く保有できる選手がいる場合がある。(参考サイトはhttps://www.spotrac.com)
18年
ドリュー・ポメランツ(SP/30)$8.5M
ネイサン・イオバルディ(SP/29)$2M
クレイグ・キンブレル(RP/31)$13M
ジョー・ケリー(RP/31)$3.8M
スティーブ・ピアース(LF/36)$6.2M
イアン・キンズラー(2B/37)$11M
ブランドン・フィリップス(2B/38)$545K
19年
リック・ポーセロ(SP/31)$21.2M
クリス・セール(SP/31)$15M
エドゥアルド・ヌニェス(2B/33)$4M
ミッチ・モアランド(1B/34)$6.5M
尚、オプトアウトがなく最も長く保有できる選手はクリスチャン・バスケス(C)の21年。
18年
J.A. ハップ(SP/36)$13M
ランス・リン(SP/32)$12M
C.C. サバシア(SP/38)$10M
ザック・ブリットン(RP/31)$12M
デビッド・ロバートソン(RP/34)$13M
ジョージ・コントス(RP/34)$545K
アンドリュー・マカッチェン(RF/32)$14.7M
ブレット・ガードナー(LF/35)$11.5M
シェーン・ロビンソン(CF/34)$950K
アデイニー・エチャバリア(SS/30)$5.9M
ニール・ウォーカー(2B/33)$4M
尚、オプトアウトがなく最も長く保有できる選手はジャコビー・エルズベリー(CF)の20年。
レイズ
18年
セルジオ・ロモ(RP/36)$2.5M
カルロス・ゴメス(RF/33)$4M
尚、オプトアウト(中略)はケビン・キアマイアー(CF)の23年。
18年
マルコ・エストラーダ(SP/35)$13M
タイラー・クリッパード(RP/34)$1.5M
クレイグ・ブレスロウ(RP/38)$1.2M
19年
ラッセル・マーティン(C/37)$20M
ジャスティン・スモーク(1B/33)$6M
ケンドリス・モラレス(DH/37)$12M
尚、トロイ・トゥロウィツキー(SS)の21年が最長。
18年
コルビー・ラスマス(LF/32)$3M
アダム・ジョーンズ(CF/33)$17.3M
ペドロ・アルバレス(1B/32)$1M
19年
アンドリュー・キャッシュナー(SP/33)$9.5M
マーク・トランボ(DH/34)$11M
尚、クリス・デービス(1B)の22年が最長。
レッドソックスとヤンキースは、主力の多くがFAとなる。両球団共に資金力があるためFAで補強することは可能である。現にこれまでそうしてきた。違いは傘下の質だろう。ヤンキースは、グレイバー・トーレスやミゲル・アンドゥハー等、長打力のある若手が新たにメジャー定着を果たしたが、まだ定着出来る素質のあるプロスペクトを複数人抱えている。が、地区優勝候補と目されたヤンキースが、アーロン・ジャッジの故障により大きく計算が狂ってしまったように、弱点はある。
そして、それはレッドソックスも同じだ。 21世紀に3度WS制覇を成し遂げた正真正銘のアメリカン・リーグ東地区最強球団(筆者はヤンキースファンである。打つ手が震えている)と言っても過言ではない。しかし、10年代に最下位3回(13年WS制覇の前後計3年)を記録する等、悪い時はとことん駄目な球団でもある。
オリオールズは、長らくチームを支えてきたジョーンズがFAとなる。ジョーンズをトレードで放出できなかったのは痛いが、彼がFAとなることで野手陣は概ね一新出来る。問題は世代交代である。一新が刷新となるか否かは厳しいところだ。ジョー・マウアーと比較されるチャンス・シスコは伸び悩んでいるし、オースティン・ヘイズにいたっては、マイナーで打てなくなり相当評価を落としたはずだ。セドリック・ムリンス(どうでも良いが、表記はどれが正しいのか。マリンス、ミューリンス……。そもそも正しいとは?)が奮闘しているのは不幸中の幸いか。
投手陣は、良いプロスペクトがいることにはいるが、すぐに昇格するレベルではなく、またローテ下位レベルである。つまり世代交代でPO進出を目指すには心許ないと言える。より簡潔に言ってしまえば、再建期を終えるには長い時間がかかるのではないだろうか。もっとも、最下位候補であったアスレチックスの躍進、今年はワシントン・ナショナルズ圧勝と目されながら颯爽とかわしたアトランタ・ブレーブス等のように、何があるか分からないが。
そしてブルージェイズだ。傘下は、メジャートップクラスのプロスペクトを多数取り揃えた宝の山である。ジャパネットたかたでさえ大胆な高価格で攻めるような質である。PO進出を果たすのに要する年数は分からないが、そう遠くはないだろうという期待を抱かせる。全員が出揃った時の瞬間最大風速は、ヒューストン・アストロズやシカゴ・カブスさえ凌ぐのではないか。レイズに限らず、アメリカン・リーグ東地区所属の球団が当面意識させられる球団であるに違いない。しかしながら、たらればの話である。まだメジャーで30本塁打を打ったとか、20勝したというわけではない。
ネックはラッセル・マーティンとトゥロウィツキーの契約である。19年オフにFAとなる他、後釜が用意出来ており、かつフィールディングに定評のあるマーティンはさておき、トゥロウィツキーは厳しい。守備に翳りが見えているにも関わらず、登録枠を1つ割かなければいけない。もっとも、故障が多くDL入りしている期間が長いのだが……。
長かった。ようやく本題のレイズである。
その前に記事の紹介。本記事を読んでくださった方は、傘下の目ぼしい選手の名前と守備位置、階級は頭に入っていることだろうと思うが、うっかりしていることもあるだろう。
レイズの特徴は次の3点である。1.FAとなる選手が少なく、ARBも少ない。2.ブルージェイズ程ではないが、傘下の質が高い。3.既に内野手は若手の定着に成功しており、外野手はベテランのゴメスがFAになる。
1から見ていく。18年オフは先の通りであるが、ここに年俸調停権を有する選手をくわえる。年齢は20年FAなら20年時の年齢となっている。参考サイトは先の通りだが、(MLB登録日数の更新ペースが分からないため)この表の信憑性は定かではなく、漏れがあるかもしれない。
17年ARB→20年FA
ビダル・ヌーニョ(RP/33)
ヘスス・スクレ(C/32)
マット・ダフィー(3B/29)
C.J. クロン(DH/30)
18年ARB→21年FA
チャズ・ロー(RP/34)
トミー・ファム(CF/33)
19年ARB→22年FA
ブレイク・スネル(SP/29)
タイラー・グラスノー(SP/29)
ウィリー・アダメス(SS/27)
マレックス・スミス(LF/29)
今オフからローとファムの年俸調停が始まるが、外野にはニック・ソラークがいる。
Nathaniel Lowe— 2018 Futures Game BP
その他は17年ARB参照。三塁手はクリスチャン・アローヨがおり、ダニエル・ロバートソンもいる。指名打者はナサニエル・ロー、捕手はニック・シアフォーといった具合。無論、その他にも候補がある。したがって柔軟な選択肢が可能だ。
19年オフからはスネルやアダメスといった主要選手の年俸調停が始まる。スネルは19年から22年は保有出来るものの、今までの傾向と今季のアーチャー移籍を考慮すると、22年7月末には移籍しているか。今オフにキアマイアーと同じ23年もしくは24年までの長期契約を結ぶ可能性もある。(マット・ムーア、アーチャー等は長期契約した上で移籍している)
2だが、既に紹介したプロスペクトの他、手術明けのブレント・ハニーウェルやヘスス・サンチェスが19年に昇格を果たしそうだ。ハニーウェルはスネルと双璧を成すであろうタレントであり、サンチェスは走攻守の揃った外野手である。
Prospect Series: Brent Honeywell Highlights
そして3だが、ゴメスがFAとなる他、ファムも18年から年俸調停が始まるようである。そのため、サンチェスやソラークを試すことが出来る。駄目ならファムを保有すればいいわけで、内野手同様柔軟な選択肢が可能。あまり考えたくないことだが、キアマイアーが急激に衰えることは考慮しておくべきである。長年レイズでプレーし、大型契約でレッドソックスに移籍した時、カール・クロフォードはまだ29歳であった。(キアマイアーは来季29歳)
が、仮にキアマイアーが衰えたとしても、ブルージェイズより先に期待の若手をメジャーに定着させているレイズのアドバンテージは大きく、トゥロウィツキー分の差が縮まるに過ぎない。
したがって、今後数年間に渡り、強豪であるが弱点はあるレッドソックスとヤンキースをかわし、PO進出することだろう、というわけである。尚、リーグ優勝は08年の1度。地区優勝(08,10)やワイルドカード(11,13)は4度達成している。
2008 ALCS Gm7: Prices gets final four outs
最後に、スネルの20勝が示すことをほぼほぼ書いていないことにようやく気付かされたので書き足す。サイ・ヤング賞を受賞した絶対的エース、デビッド・プライスがレイズに在籍していたのは08~14であり、08年にリーグ優勝を達成している。つまりスネルはプライスというわけである。であれば、06~12に在籍し、プライスに次ぐ先発として活躍したジェームズ・シールズがいなければいけないが、それはハニーウェルというわけだ。いや、デビューイヤーにWSに導いたのがプライスなのだから、ハニーウェルがプライスなのか。しかし、プライスは左腕で、スネルも左腕で……。