年俸調停と契約延長
先日、ニューヨーク・ヤンキースに所属しているルイス・セベリーノ投手が、4年$40M+オプション$15Mで契約延長を果たした。
Breakdown of Luis Severino's deal, per source:
— Jeff Passan (@JeffPassan) February 15, 2019
2019: $4M+$2M bonus
2020: $10M
2021: $10.25M
2022: $11M
2023 (club option): $15M with $2.75M buyout
Interesting part of that: higher salaries in '20 and '21, lower than usual in '22. Why? Protection against a work stoppage.
テーマ
- この契約延長はお得なのか。
- 今後、こういう契約は増えるのか。
上記、2つの問題を考えたい。
この契約延長はお得なのか。
まず、①だ。ルイス・セベリーノは、MLS3.00未満の選手である。しかしながら、スーパー2適用対象の選手であるため、2019年から年俸調停権が発生する。したがって、2019年から2022年は年俸調停期間であり、2022年オフにMLS6.00以上となってFAとなる。オプションを行使すれば、2023年もニューヨーク・ヤンキースに保有権がある。
契約延長にはメリットとデメリットが存在する。メリットは、成績の良し悪しに関係なく、年俸をロック出来ることである。同時に、それはデメリットにもなる。球団、選手双方がこの損得を考え、両者が合意に至ることで契約延長はなされる。しかしながら、両者にとって納得の行く契約内容が、客観的に損であるか得であるかは別問題である。そして、客観的に損であると考えられるのであれば、②を先取りすることになるが、増えないだろう。
一旦、CBA問題や潜在的な故障リスクは無視し、2019年から2022年の間、期待通りの成績を残すと仮定する。期待通りの成績については、2018年と同水準であっても、更に成績を向上させるというものでも、何でも構わない。とにかく、ノンテンダーFAにならない成績を残すという仮定だ。
年俸調停期間の年俸について
MLBTRの2017年の記事を参考に、年俸調停期間の年俸総額を$40Mでロックした場合、年俸調停をした場合、どちらの方が得なのかを表にした。
Player | Arb-1 | Arb-2 | Arb-3 | Arb-4 | Total | ||||||
WAR | $ | WAR | $ | WAR | $ | Age | WAR | $ | r-WAR | Salary | |
David Price | 3.3 | 4.35 | 6.6 | 10.11 | 2.7 | 14.00 | 29 | 4.3 | 19.75 | 16.9 | 48.21 |
Aaron Nola | 10.5 | 4.50 | 0.0 | 8.50 | 0.0 | 12.25 | 29 | 0.0 | 15.50 | 10.5 | 40.75 |
Luis Severino | 4.8 | 4.50 | 0.0 | 10.50 | 0.0 | 10.75 | 28 | 0.0 | 11.50 | 4.8 | 37.25 |
Jake Arrieta | 5.4 | 3.63 | 8.3 | 10.70 | 3.7 | 15.63 | 32 | 1.9 | 0.00 | 19.3 | 29.96 |
Dallas Keuchel | 6.7 | 7.25 | 0.4 | 9.15 | 3.9 | 13.20 | 31 | 2.6 | 0.00 | 13.6 | 29.60 |
Jacob deGrom | 3.5 | 4.05 | 4.4 | 7.40 | 9.6 | 17.00 | 32 | 0.0 | 0.00 | 17.5 | 28.45 |
Max Scherzer | 1.4 | 3.75 | 4.4 | 6.72 | 6.4 | 15.52 | 33 | 5.7 | 0.00 | 17.9 | 25.99 |
Trevor Bauer | 2.3 | 3.55 | 3.2 | 6.52 | 5.8 | 13.00 | 29 | 0.0 | 0.00 | 11.3 | 23.07 |
まず、Arb-1には、スーパー2(デビッド・プライス等)、MLS3.00以上(ジェイク・アリエッタ等)、契約延長済MLS2.00以上(セベリーノ等)の三種類を含んでいる点に留意してもらいたい。Arb-2以降も同様である。尚、WARは前年のものである。例えば、アーロン・ノラは2018年にr-WAR10.5を記録している。それから、バイアウトは総年俸に含んでいない。
年俸調停期間の最高年俸総額$48.21M
年俸調停期間中の、単年契約による最高年俸総額は、プライスの$48.21Mである。尚、2015年に$19.75Mで、投手の4度目の年俸調停&年俸調停最高額を記録している。ジェイコブ・デグロムは$19.75Mを大幅に上回るだろう。
MLS4.00未満の複数年契約について
ところで、MLS1.00未満で複数年契約を行った例は、近年では2例ある。マット・ムーア5年$14Mと、クリス・アーチャー6年$25.5Mである。
MLS2.00未満は11例。相場は、4年$10~12Mのパターンか5年$30~35Mのパターン。
MLS3.00未満となると19例に増える。相場は、4年$15Mか$27~29Mのパターン、5年$30Mか$40Mのパターン。セベリーノが破格の額であることが分かる。サイ・ヤング賞を受賞した翌年、29歳から33歳まで5年$38.5Mで契約を結んだクルーバーに対し、セベリーノは、2年連続サイ・ヤング賞10位以内、オプション込みであれば、25歳から29歳(FA期間1年のみ)までの5年$52.25M。尚、クルーバーは2年$35Mのオプションがある。
MLS4.00未満は16例。相場は、2年(額はまちまち)のパターン、3年$20Mのパターン、4年$27~$30Mのパターンとまちまち。最長はカルロス・マルティネスの25歳から29歳までの5年$51M。ノラの契約は、実質サイ・ヤング賞の翌年、オプション込みであれば26歳から30歳(FA期間2年を含む)までの5年$56.75Mであり、リーズナブルであると言える。
結論
①の結論として、プライスでさえ、年俸調停期間の4年間で$48Mがやっとであるにも関わらず、$40Mロックはリスクが高いと言える。ただ、期待通りの成績を故障せずに残せるのであれば、$40Mはお得だろう。オプション込みで$52.25Mというのも魅力的だ。しかし、3年目以降の年俸を抑える代わりに、2年目$10Mに達する点は、故障を考えると少し怖い所だ。しかしながら、アーロン・ノラの契約に関しては、リーズナブルだと考える。
今後、こういう契約は増えるのか。
増えないのではないかと考える。FA期間1年、つまり、1年多く保有出来る点は魅力的だが、故障や衰えのリスクを背負う割に安くはなく、これまで通り多くは行われないだろう。
FA市場の停滞、言い換えれば、長期契約によるリスクを避けようとする動きは、年齢が若いFA前の選手に対する投資額(総年俸に占める年俸の割合)を増加させることはあると考える。が、故障や衰えのリスクを避けようとするのだから、年俸調停に比べて安くなるとは限らないリスクは避けるだろうということである。
また、FA期間1年を犠牲にして、年俸調停期間中の年俸をロックしようと考える選手はそれほど増えないだろう。2019年オフ、ジェイコブ・デグロムはプライスの最高年俸を大幅に更新するだろう。ノーラン・アレナドは、コロラド・ロッキーズと単年$26Mで契約を結び、FA前の野手による単年契約の最高年俸を更新したばかりだ。球団としても、今後、年俸調停期間中の総年俸が増加する傾向があるのであれば、4~5年契約に留めず、(リスクを避けないなら)より長期の契約を打診するだろう。
したがって、繰り返しになるが別に増えないと考える。
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Jose Molina, David Price, Evan Longoria | Tampa Bay Rays at … | Flickr